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過去のメッセージ

展開するAcademic English for Chemistry
− 21世紀からグローバルへ

東京大学大学院理学系研究科・教授
AECプログラムコーディネーター
山内 薫

東京大学大学院理学系研究科化学専攻では、平成18年度まで、岩澤康裕教授をリーダーとする21世紀COEのプログラムの下で、Academic English for Chemistry が博士1年の大学院生のために開講されてきました。その成立までの過程や展開の様子は、私がAEC Symposium のプログラムが掲載されたパンフレットに、3回に分けて寄稿した文章にも説明されている通りです。実際、このAEC講義は、国際的に通用する若手人材育成のための教育プログラムとして高く評価されました。そして、われわれが、先鞭をつけた理系博士課程のための英語教育の形は、全国の他の21世紀COEプログラムに、良いモデルとして波及して行ったと聞いています。

この実績は、昨年、私どもが中村栄一教授をリーダーとして、大学院工学系研究科の化学系3専攻とともに提案したグローバルCOEの評価の際にも、大変ポジティブに働いたように感じています。我々は、グローバルCOEの下で、平成19年10月より、Academic English for Chemistry を更に充実したプログラムとして、再び開講することといたしました。対象となる化学専攻を中心とする博士課程1年の学生の皆さんには、夏学期の間の半年間、AECを開講することができず申し訳ない限りでした。しかし、冬学期の半年だけとは言え、再びAECを開講することができたことは、このプログラムを担当する者として、大変嬉しいことでした。

国際的に通用する若手人材を育成するということは、私どもの21世紀COEプログラムにおいても、グローバルCOEプログラムにおいても、一貫した目標の一つとなっています。21世紀COEプログラムにおけるAECでは、特に、学生の皆さんが、正しい英語で、正しいロジックで学術論文を書けるようになるということを最重要課題として、授業が行われました。もちろん書くことばかりでなく、英語で研究成果を発表すること、そして、英語で議論することについても訓練ができるように、工夫して授業が行われました。特に、年度の終わりに学生たちが主体となって開催する AEC Symposium のための準備は、英語を用いた研究発表や議論の実践的な教育の場となって来ました。年度の終わりの、このシンポジウムの機会をはじめ、折に触れて学生の皆さんから、AEC授業の感想を聞くと、8時30分からの授業に出席するのはつらかったが、授業を受けてよかった、役に立ったという意見が寄せられることが殆どでした。私たちは、グローバルCOEプログラムにおいても、若手人材育成の重要なプログラムのひとつとしてAEC授業を開講することになりました。

 語学の力を向上させるには、長い時間の訓練が必要なことは言うまでもありませんが、特に理系の学生の場合には、論文発表にも、ディスカッションにも、国際的に通用する語学としての英語が必須の道具となることを、できるだけ早いうち認識し、実践を通じて慣れ親しむことが大切です。その意味で、修士課程の大学院生向けにも、AEC授業に相当するものを開講するべきではないかと考え、新たに基礎英語演習(Basic Academic English for Chemistry) をパイロットプログラムとして試行することとなりました。

21世紀COEプログラムにおいて英語教師をして下さっていたTimothy Wright 先生とDavid Taylor 先生は、グローバルCOEにおいても英語教師を引き受けて下さることになり、さらに、John Pustulka先生、Clifford Burford先生、Michael Miller 先生が加わっていただくことになりました。Wright 先生が先生方のリーダーとして、AECチームの牽引役を引き受けてくださいまして、こうして、Wright 先生、Taylor 先生、Pustulka 先生、Burford 先生が博士課程のためのAECプログラムを、そして、Miller 先生が修士課程向けの BAEC パイロットプログラムを担当してくださるというAECチームが平成19年9月に発足し、10月からの冬学期に取り組むことになったのです。

その後、5人の先生方のご尽力で、AECもBAECも順調に進みました。平成20年度からのAECおよびBAEC授業をより良いものとするために、平成19年の12月末には、受講している学生の皆さんにアンケートをとり、授業の内容についての感想や要望を聞くことになりました。以下にその結果をご紹介します。

本年度10月からのAECには、博士1年の学生のうち25名が登録しましたが、ほぼ全員がアンケートに答えてくれました。
・授業の難易度については、「やや難しい」4名、「ちょうど良い」12名、「やや易しい」6名という分布となっており、授業のレベルが適切であったことが分かります。
・先生の英語を聞き取れるかどうかという質問には、「ほとんど聞き取れる」19名、「どちらとも言えない」5名という分布で、先生方が分かりやすい英語で学生に授業をしてくださっていたことが分かります。
・宿題の量についての質問には、「多すぎる」5名、「ちょうど良い」17名、「少なすぎる」2名という分布でした。この結果は、先生方がおおよそ適切な量の宿題を出してくださっていたことを示しています。
・ そして重要な項目として、授業が楽しいかどうかについての質問には、「楽しい」18名、「何とも言えない」5名という分布で、先生方が学生にとって「楽しい」と思える授業を行うことを心がけて下さっていたことが分かります。

総合的には、先生方が実に質の高い授業をして下さっていたことがこのアンケートから分かりました。さらに、学生の皆さんにコメントを寄せてもらいましたが、「海外での学会に参加したときに役立った。」、「お2人の先生から別々の視点でWriting について学ぶことができて良かった。」、「英語を話す機会ができて、その意味で大変良かった。」、「熱心に授業をしてくださることを大変ありがたいと思っている。」、「英語で話すということにバリヤーが無くなった。」、「授業はとても楽しい。」というポジティブな意見の他に、「題材として化学の内容が増えると良い」、「シンポジウムの準備期間が例年より短い点が心配だ。」、「もっと発音について細かい指導をしてほしい。」、「一般的なWriting についての講義では物足りない。」、「成果発表会などのプレゼンテーションの機会をもっと設けてはどうか。」、「テクニカルライティングの実力を向上させるために工夫が欲しい。」、「やはり半年でなく通年で学びたかった。」などの要望がありました。ライティングについて良いと評価する意見と物足りないという意見、また、話すことについては、良いという評価と、さらに指導をして欲しいという意見があり、限られた時間の中で、先生方ができる限りのご努力をしてくださっていることが伺われます。

博士のAEC授業と同時期に開講されたパイロットプログラムとしての修士課程学生向けのBAECでは、登録した学生18名のうち、半数の9名が回答を寄せてくれました。
・授業の難易度については、「やや難しい」2名、「ちょうど良い」5名、「やや易しい」2名という分布となっており、Miller 先生の授業のレベルが修士課程の大学院生の皆さんにとって適切であったことが分かります。
・先生の英語を聞き取れるかどうか質問には、「ほとんど聞き取れる」7名、「どちらとも言えない」2名という分布で、やはり、先生が分かりやすい英語で学生に授業をしてくださっていたことが分かります。
・宿題の量についての質問には、「多すぎる」2名、「ちょうど良い」7名、という分布でした。この結果は、宿題の量が適切であったことを示しています。
・授業が楽しいかどうかについての質問には、「楽しい」8名、「何とも言えない」1名という分布で、Miller 先生がほとんどの学生が「楽しい」と思える授業を行って下さったことが分かります。

総合的には、Miller先生が、AEC授業を担当された4名の先生方と同様に、質の高い授業をして下さっていたことが分かります。学生の皆さんからのコメントとしては、「素晴らしい授業」、「コンスタントに英語に触れることができて良い。」、「学会における発表の際の質問の受け答えなどについてのアドバイスがありがたかった。」、「英語で話す良い練習になった。」、「内容については申し分ない。」という高い評価の他、「来年も続けて欲しい」、「より実用に即したことをして欲しい」、「単位に入れて欲しい」、「可能なら来年も受けたい」などの要望が寄せられています。

以上のアンケートの結果は、AECの授業も、BAECの授業も、受講生の皆さんにとって、楽しく、しかも、充実したものであったことを物語っています。そのことは、これらの授業を用意したわれわれにとっては大変嬉しいものです。学生の皆さんから寄せられた具体的な要望については、来年度からの授業がより良いものとなるように、役立てて行きたいと思っています。

平成20年度からは、通年の授業として、AECおよびBAECが開講されます。また、BAECも単位を取得できる大学院授業の一つとなりました。英語教師の先生方からは、来年度からの授業がさらに充実したものとなるように努力してくださると伺っています。AECおよびBAECでは、受講生の皆さんが、授業を通じてロジカルな文章を書くという能力に加え、講演や質疑応答、日常の議論や交渉などの際のコミュニケーションの能力が一層向上するような授業を提供していきたいと考えています。大学院生の皆さんが、このAECプログラムを活用して、将来の国際的な研究および学術活動に取り組んでいってくれることを願っています。今年も、AECとBAECの受講生の皆さんが、英語教師の先生方のご指導の下、AEC Symposium の準備に熱心に取り組んでくれています。平成20年2月29日(金)に開催されるAECシンポジウムでは、半年間の授業の成果を聞かせてくれるものと思います。

最後になりますが、半年間充実した授業をして下さったWright 先生、Taylor先生、Pustulka 先生、Burford先生、Miller 先生に厚く御礼申し上げます。

(平成20年2月18日)


●過去のAECシンポジウムパンフレットへの寄稿文はこちら
第1回AECシンポジウムに寄せて(平成15年度)
第2回AECシンポジウムに寄せて(平成16年度)
第4回AECシンポジウムに寄せて(平成18年度)