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過去のメッセージ

学際とフロンティア

東京大学大学院理学系研究科
山内 薫

Frontier of Science という国際会議をご存知でしょうか?これは、米国National Academy of Science が主催しているもので、1989年以来、米国で毎年開催されている会議です。その特徴は、自然科学のすべての分野(数学、物理、化学、生物学、天文学、地球科学、海洋科学など)から8つのセッションのテーマが選ばれること、出席者の年齢が45歳以下であること、出席者数が80名であること、全員参加の下、議論の時間を十分にとることにあります。日本と米国の間でも、JST(当時は科学技術振興事業団)とNASの共同主催の国際会議として、1998年に第1回Japan-America Frontier of Science (JAFoS) が開かれました。JAFoSの場合、日本から40名、米国から40名が参加する他はFoSとフォーマットは同じです。2002年からは、日本側は日本学術振興会が主催団体となって今日に至っていますが、フォーマットに関しては今も変わらないようです。

私は、このJAFoSの第1回目に組織委員として、また、その翌年の1999年に開催された第2回目には日本側の組織委員長として、会議を運営する立場となりました。そのときに感じたことは、このような学際的な会議は、自分の専門とは異なった先端研究分野での動向を知る極めて有意義な場であると同時に、学際的な学術交流を促すものであり、将来、新しい学術分野を切り開いていくことを期待されている若い世代の研究者達にとって、極めて刺激的なものであるということです。そして、私自身も、専門分野が異なる研究者にそれぞれの研究内容の面白さを伝えることの難しさ、そして、ディスカッションが如何に理解を深め得るものであるかを学ぶ機会となりました。さらに、会期中のセッション以外の時間、例えば、休憩や食事の時間が、議論の場として貴重なものであることを経験することにもなりました。

私たちは、ともすると毎日の自分自身の研究や仕事に追われて、自分が専門とする分野以外のところで、どのように研究が進展しているかを知ることが難しくなって来ているように思います。そして、研究が先端的になればなる程、他分野の研究者にとっては、その研究の意義を理解することが難しくなるという現状があります。「深く研究する」というアプローチ無くしては、自然科学研究の発展があり得ないのは勿論ですが、一方で、「他の研究分野における進歩のおかげで、さらに深く研究が進む」ということもしばしば起こることです。FoSが目指していることの一つは、多分、若い世代の研究者に、普段から視野を広く持ち、他分野の研究者と交流することの大切さを実感させ、その結果として、学術研究のフロンティアの開拓を促進することであるように思います。

(平成20年8月4日)